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大分地方裁判所 昭和47年(わ)68号 判決 1979年2月09日

本籍

大分県大野郡大野町大字田中二七九八番地

住居

大分市大字古国府七九三番地

食料雑貨品販売業

山崎勝登

昭和三年三月二九日生

右の者に対する所得税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官小池洋司出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役六月及び罰金五〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金二万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判の確定した日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、大分市大字古国府七九三番地に居住し、スーパーマーケット、食堂、モーテル、旅館の経営及び不動産の売買、仲介などをしていたものであるが、昭和四三年分の実際の所得金額は三、九三一万一、七六六円(第一及び第二別表)であり、これに対する所得税は二、一三〇万七、二〇〇円(第三別表)であったのに、所得税をほ脱する意図のもとに、昭和四四年三月一九日、同市中島西一丁目一番三二号所在の所轄大分税務署において、同署長に対し、昭和四三年中の所得金額が四一万四、八六〇円であり、これに対する所得税額が〇円である旨記載した虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為によって昭和四三年分の所得税二、一三〇万七、二〇〇円を逋脱したものである。

第一別表 修正損益計算書

自昭和43年1月1日

至昭和43年12月31日

<省略>

修正損益計算書

<省略>

修正損益計算書

<省略>

修正損益計算書

<省略>

第二別表損益計算書内訳及びその証拠の標目

註 以下次の略号を用いる。

1  (株) 株式会社

2  (有) 有限会社

3  (資) 合資会社

4  <当> 当公判における供述

5  <公>(九回) 第九回公判調書中の供述部分

6  <尋> 当裁判所の尋問調書

7  <検> 検察官に対する供述調書

8  <大> 大蔵事務官に対する質問てん末書

9  <復> 復命書

10  <回> 回答書

11  <証> 証明書

12  <上> 上申書

13  登 登記簿謄本

14  符一 昭和四九年押第二二号符号一

15  四六、二、五 昭和四六年二月五日

16  検一五五 検第一五五号と表示されたもの

17  被一 被第一号と表示されたもの

18  冒陳 検察官の冒頭陳述書

一  雑所得 三五、九三二、六〇三円

(一) 土地売上 八〇、八二九、四三八円

<省略>

<省略>

<省略>

(二) 土地売買仲介の手数料収入 七、一八〇、〇〇〇円

<省略>

<省略>

(三) その他収入 一、一七〇、〇〇〇円

<省略>

(四) 土地原価 四七、七七四、四〇〇円

(イ) 昭和四三年一二月末現在 一八、一六三、四〇〇円

<省略>

(ロ) 当年中取得 三〇、一一一、〇〇〇円

<省略>

<省略>

<省略>

(ハ) 昭和四三年一二月末現在 五〇〇、〇〇〇円

<省略>

(五) 必要経費 一、六二〇、〇〇〇円

<省略>

(六) 減価償却費 一二〇、八四〇円

<省略>

(七) 支払利息 二、七九〇、八四五円

<省略>

(八) 割引料 九四〇、七五〇円

<省略>

二、事業所得 六六四、〇二〇円

(一) 収入金 一四、五一〇、二九七円

<省略>

<省略>

(二) 必要経費 一二、六〇四、三八九円

<省略>

(三) 減価償却費 一、〇九一、八八八円

<省略>

(四) 専従者給与 一五〇、〇〇〇円

<省略>

三、不動産所得 五〇八、五〇九円

(一) 家賃収入 六〇五、〇〇〇円

<省略>

<省略>

(二) 減価償却費 九六、四九一円

<省略>

四、譲渡所得 二、〇九九、九六八円

(一) 譲渡収入 七、一〇〇、〇〇〇円

<省略>

(二) 必要経費 四、一一六、四七二円

<省略>

(三) 譲渡所得特別経費(前記四の(一)の<2>について)八八三、五六〇円

<省略>

五、配当所得 一〇六、六六六円

(一) 収入金 一〇六、六六六円 (府内信用金庫に対する出資金の配当金)

<省略>

第三別表 ほ脱税額計算書

<省略>

(証拠)

前記第二別表中、証拠の標目欄に掲記の証拠及び次の証拠により認定

判示事実全般につき

一、 被告人47・2・24付、47・2・24付各<検>

一、 所得税確定申告書(符21)

判示雑所得中、(1)土地売上、(2)手数料収入及び(4)土地原価につき

一、 被告人46・8・10付<大>

判示雑所得中、(1)土地売上及び(4)土地原価につき

一、 被告人45・11・11付45・12・2付各<大>

判示雑所得中、(1)土地売上中の<1>、<2>、<3>及び<4>の岩崎貢に対する各土地売上につき

一、 神田清海<公>(9、11、12回)

一、 岩崎貢<大>

一、 和田康生<回>

一、 手帳一冊(符1)

一、 約束手形控一冊(符2)

一、 手形記入帳一冊(符3の2)

一、 山崎関係領収書綴一綴(符29)

判示事業所得につき

一、 被告人46・10・18付<大>(検182)

判示不動産所得中、(1)家賃収入につき

一、 被告人46・10・19付<大>(検185)

(事実認定についての補足設明)

一、 判示雑所得中、土地売上明細中の<1>及び(4)土地原価の(ハ)昭和43年12月末現在について

検察官は、被告人が丸山薫から購入した大分市大字津留字六本松一九二六番三他一筆の土地は昭和四三年一二月末現在において被告人の所有にあった旨主張し、被告人45・12・2付、46・11・20付(検190)各<大>、姫野良平<大>等によるとこれに符合する供述記載もあるが、前掲関係各証拠、ことに神田清海<公>(9回)、手帳(符1)、岩崎貢<大>等によれば、右供述記載を信用することができず、被告人は右二筆の土地を昭和四三年七月に大分市大字古国府字下新田九五二番他九筆の土地とともに右岩崎に合計二、〇〇〇万円で売却したものと認定せざるを得ない。

二、 判示雑所得中、(1)土地売上明細中の(2)及び(4)土地原価の(ロ)当年中取得明細中の<4>について

前掲関係各証拠によると、被告人は、昭和四三年三月に中島竹子から合計六〇〇万円で買い受けた同女所有の大分郡挾間町大字高崎字タシロヲ九三番地九筆の土地を、増田英一との間で同人所有の大分市大字古国府字下新田九五二番他二〇筆(検察官主張の二二筆の土地のうち同市大字古国府字下新田九六七番の一筆を除く)の土地と交換差金を六〇〇万円として交換したこと、右二一筆の土地のうち同市大字鴛野字登立六三一番他四筆を同月中に岩崎貢に合計一、一九〇万円で売却したこと、また、右五筆の土地代金のうち六〇〇万円については右岩崎より直接右増田宛の約束手形五枚(額面合計六〇〇万円)の振出をしてもらい、これを右増田に対する交換差金に充当したことが認められる。

弁護人は、検察官出張の二二筆の土地のうち、右五筆及び同市大字下親田の一七筆(認定は一六筆)中の六筆については右岩崎が右増田より直接買い受け、残りの一一筆を被告人が交換した旨主張し、被告人<公>(26回)、手帳(符号1)、判決書謄本等によればこれを窺わせる点もあるが、もしそうだとすると、被告人が、判示のとおり右一六筆の土地のうち八筆を同年七月に右岩崎に売却し残り八筆を同年八月に河野信彦に売り渡していること、同年五月一五日に右五筆の土地代として右岩崎より同人振出の約束手形六枚(額面合計五九〇万円)を受け取っていること(約束手形控一冊(符2)、手形記入帳(符3の2)、山崎関係領収証一綴(符29)中の被告人作成の昭和五三年五月一五日付金額五九〇万円の領収証)などと矛盾することになるので、右被告人<公>(28回)等の記載を信用することができず、結局前掲関係各証拠、ことに神田清海<公>(9、12回)によると、右のとおり被告人が右二一筆の土地を取得したうえ右五筆を右岩崎に売却したものと認めざるを得ない。

なお検察官は、同市大字古国府字下新田九六七番の土地も被告人が右増田から取得した旨主張するが、右増田<大>、被告人46・8・10付<大>、被告人<公>(26回)等を併せ考えると、右主張には疑問があり認め難い。

三、 判示雑所得中、(1)土地売上明細中の<3>及び(4)土地原価の(イ)昭和四二年一二月現在明細中の<1>について

前掲関係各証拠によると、被告人は、昭和四二年五月に中島学との間で同人所有の大分市大字志村字谷ケ迫二二〇番の土地と被告人所有の同市中央三丁目五六一二番の土地及び同地上の建物を等価(評価は一、七六六万三四〇〇円)で交換したこと、昭和四三年二月に右大字志村の土地及び同市大字羽屋字小僧淵七三四番一の土地の二筆を合計二、四七五万一、四三八円で岩崎貢に譲り渡したことが認められる。

弁護人は、右中島中央の土地建物はもと右岩崎の所有であって同人が右中島所有の右大字志村の土地とを交換した旨主張し、中島学45・11・12付、45・11・16付、 47・2・22付各<大>、被告人<公>(23・28回)等にはこれに沿う供述記載もあるが、被告人<公>45・11・11付、45・12・2付各<大>、47・2・26付<検>、神田清海<公>(9・12回)等によると、被告人は右中島中央の土地建物を昭和四一年頃取得しスーパーマーケット府内を経営していたが昭和四二年五月にこれを廃業し自ら申出て右のとおり右土地建物と右大字志村の土地を交換したこと、当時多額の借財をかかえていたことなどから形式上右岩崎を右大字志村の土地の所有名義にしていたにすぎないこと、また登(検110)によると昭和三八年一二月一一日に売買により右大字志村の土地の所有権を取得したかのようになってはいるが、右登記申請の受付日は右交換後である昭和四二年六月六日になっており右のとおり交換後所有名義のみ右岩崎に愈していたことを認定する妨げとなるものではないことなどが認められるので、右中島学45・11・12付<大>等供述記載に信を措けず、右大字志村の土地は右のとおり昭和四二年一二月末現在被告人が所有していたものと認定した。

次に、検察官は、被告人が右岩崎に対し右二筆の土地を代金合計二、九二五万一、四三八円で売却したこと、その代金の決済内訳について、右岩崎は、(1)当時被告人に対し有していた債権一、〇七〇万円(論告では一、一七〇万円である旨主張している)を相殺充当したほか、(2)被告人が府内信用金庫に対し負担していた九五五万一、四三八円の債務を代払いし、(3)さらに九〇〇万円を約束手形で被告人に支払った旨主張するところ、前掲関係各証拠により右(2)及び(3)についてはこれを優に認めることができるものの、右(1)について検察官主張にかかる当時の被告人の債務の明細をさらに検討すると、神田清海<公>(9・11・12回)、約束手形控(符2)、手形記入帳(符3の2)、約束手形二綴(符26・27)等によると、検察官の主張にほば沿う供述記載等(被告人46・8・10付<大>、47・2・26付<検>によると、被告人も捜査段階では二、九〇〇万円で売却した旨供述していた)もあり、被告人は(1)昭和四二年中に右岩崎より土地購入資金として合計六二〇万円の約束手形六通、融資分として合計八五〇万円の約束手形一三通(但し、昭和四二年五月二二日振出分の二通については、神田清海<公>(11回)、約束手形控(符2)等からして疑問があるので除外した)の振出を受け、いずれもこれを流通において利用し右岩崎に債務を負担する一方、(2)同人に対し選挙費用として四〇〇万円を貸与し該債権を有していたことが認められるが、他方、右岩崎に代り被告人と右売買の交渉に当っていた神田清海が記帳していた手帳(符1)の二月二一日欄に、「山崎行、彼の借金全部+一、〇〇〇万円を九〇〇万円に値下げさせて志村土地と小僧淵を当方のものとする」旨の記載があり、また、その右頁には記載位置、内容等からみて右土地代金の内訳を計算したものと認められる記載もあって、その記載からすると、右売買当時の被告人の「借金全部」とは、土地購入資金分の六二〇万円に融資分の四〇〇万円を加算した額から選挙費用分の四〇〇万円を差引いた六二〇万円の債務がそれにあたるものと認められるので、前記融資分八五〇万円の債務のうち四五〇万円については売買当時すでに被告人から弁済を受けるなどして決済が終っていたのではないかとの疑問が残り、結局以上を考え考えると、売買代金に相殺充当された債務は手帳(符1)記載のとおり六二〇万円認定せざるを得ず(売買当時、融資分の約束手形のうちどの手形が債務として残っていたかは特定することは証拠上できないが、少なくともその当時融資分として四〇〇万円の債務を負担しこれを売買代金と相殺充当したことが、認められることで充分認定できる)、従って右のとおり右二筆の土地の売買代金は二、四七五万一、四三八円であると認定した。

四、 判事雑所得中、(1)土地売上明細中の<6>及び(4)土地原価の(ロ)当年中取得明細中の<3>について

前掲関係各証拠によると、被告人は、丹波正雄から昭和四一年中土地買入代金及び借入金として合計一、〇〇〇万円の交付を受けていたところ、昭和四三年二月に被告人と右丹波との間で被告人所有の大分市大字神崎字ウバゲ所一一二六番他一三筆の土地と右丹波所有の同市大字古国府字下新田一〇四七番一他二筆の土地(評価八一七万八、〇〇〇円)とを右一、〇〇〇万円を交換差金として交換したものとみられる。

なお、検察官は、昭和四一年中被告人が右丹波から土地買入代金等として合計一、一二〇万円の交付を受けた旨主張しているところ、右一、一二〇万円の明細中土地買入代金二七〇万円については、証人丹波正雄<公>(13回)被告人46・8・10付、46・8・11付各<大>にはこれが主張に沿う供述記載もあるが、右丹波が記帳していた手帳(符号6)の右一、一二〇万円の明細を記載した欄をみると、他の土地買入代金等の各明細金額と同じく鉛筆で一旦二七〇万円と記載したものの、これをその上欄に同じく青インクで横線を引いて抹消したうえその上欄に同じく青インクで一五〇万円と書いたものと認められる記載があること、右記載の体裁等からして右丹波は土地の交換時までに何らかの理由で右二七〇万円の記載が誤りであることを発見しその当時の被告人に対する真実の代金交付額に合致させるためこれを一五〇万円に訂正記帳したのではないかとの疑問が残る一方、右丹波自身これが記載の変更の理由について明確な記憶を有せず合理的な説明ができないことなどからすれば、右明細中の二七〇万円についてはこれを一五〇万円と認定するほかなく、従って土地の交換差金を右のとおり一、〇〇〇万円と認定した。

また、検察官は、被告人が右丹波から取得した三筆の土地の評価は八八〇万円である旨主張し、右丹波の<公>(13回)によると、右丹波が被告人から取得した一四筆の土地の評価が約二、〇〇〇万円であって交換差金を加え等価で交換した旨の供述記載等もあるが、他方右二、〇〇〇万円という評価自体が大雑把なものであり、また右丹波が譲り渡した三筆の土地については格別評価もしていないこと、交換差金も右のとおり一、〇〇〇万円と認めざるを得ないことなどからすれば、検察官主張のように右二、〇〇〇万円から一、一二〇万円を差引いた額である八八〇万円を右三筆の土地の評価とすることができず、また右の算出方法自体に信を措くことにも躊躇されるところ、右丹波の<尋>、登(検126・127・128)によると、右丹波は昭和四一年中に被告人の世話で右三筆の土地を合計八一七万八、〇〇〇円で買い受けたことが認められ、他にこれを適切に評価する証拠もないので、右のとおりをこれを八一七万八、〇〇〇円と認定した。

(法令の適用)

被告人の判示所為は所得税法二三八条一項(一二〇条一項三号)に該当するところ、所定刑中懲役刑と罰金刑を併科し、その所定刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役六月及び罰金五〇〇万円に処し、右の罰金を完納することができないときは、刑法一八条により金二万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から二年間右懲役刑の執行を猶予し、訴訟費用については、刑刑事訴訟法一八一条一項本文を適用してこれを被告人に負担させることとする。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 永松昭次郎 裁判官 柄多貞介 裁判官 平井慶一)

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